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おそらく4歳ごろの想い出である。地元の祇園祭は例年3日間の日程である。お祭りの初日、母と一緒にでかけた。露店が道の両側に立ち並んでいた。その中のお面の露店屋で、私は動けなくなってしまった。


仮面ライダーV3のお面を長い間みつめていた。直後、母に「これほしい」と叫んでいた。母は露店主に値段を確認し、しばらく私とお面を眺め「お祭りの最後の日に買おうか?」私は嬉しさのあまり「うん」と勢いよく返事をしたことを覚えている。


翌日の夕方、家には父と私だけが居た。父は日本酒を呑み始めてテレビを見ていた。私はとっさに思い出し、仮面ライダーV3のお面がほしいあまり父にダダをこねた。なんども「ほしい、ほしい」と声をあげると父は「よし」と上下白い下着姿から簡単なポロシャツに変えて、私はダメもとでのお願いが通じたことに有頂天となって「やったー」と言ったような気がする。


お目当てのお面屋さんで、仮面ライダーV3のお面を買ってもらうと、上機嫌で帰路についた。家に近くなると父が「肩車するか?」といって「うん」といった気がする。ほろ酔いの父とお面を手に入れられた私と2人で上機嫌で肩車で歩道をすすんだ。人手が多くあったが、高い位置からお面をおでこにかけ、とても楽しかった。


その直後、4歳ながらに心臓が止まるような思いをした。用事を済ませた母と偶然に遭遇したのだ。私はやましさも伴い、とっさに「お面、父ちゃんに買ってもらった」と大きな声で母に言った。母は「最期の日にかあちゃんと買うって約束したでしょ」ときっぱり言った。


私が答える前に、上機嫌の父が「いいよ、いいよ」といって、早く家で呑みたかったのだろうか、2人の約束も知らずに、肩車をしたままで歩き始めた。罪悪感があり高い位置から母の表情を盗み見た。怒ってはいないが悲しそうな表情であった。


父は上機嫌のままであったが、母との約束を破ったやましさと、母の悲しそうな表情から、私の嬉しさは罪悪感のようなものへと一瞬で変わった。仮面ライダーのお面さえ価値が半分になってしまったような気がした。生まれてはじめて後悔をした気がする。


母は教育のために「約束」させた意図があったに違いない。3日目の最終日には私とお面屋で一緒に買い物をして、喜ぶ私の表情や成長を見たかったのだろう。豊かな生活でなく、数すくないお気にいりの濃紺のサマーセーターを着ていた。お面の価値も、父ちゃんのかたぐるまの楽しさも一瞬でなくしてしまった。50年以上経った今でも、母のその悲しそうな表情をはっきり覚えている。